神様も一緒に描かれた昔の大絵馬 いま、あらためて問い直す協働の心
絵馬というと、合格祈願の小絵馬や正月の干支絵馬がおなじみですが、本全集に収録した大絵馬は、主に1~3畳もの大きな絵馬です。そこには浸種から田植え、稲刈り、脱穀、精米までの1年の農作業や漁業、酒造、商売、船運、学校、子どもの成長、祭、念仏講、伝説の人びとなどが、幸せを願う庶民の姿が生き生きと詳細に描かれています。大絵馬は当時のその地域の人々の暮らし、技術、文化を伝える一級の民俗図誌であり、美術絵画です。
本全集は、全国津々浦々の社寺を訪ね、江戸から明治、大正、昭和に奉納された大絵馬を撮影し、テーマ別に5巻に分けて集大成しました。さらに、ひとつの場面ごとに描かれた人の表情までがわかるよう。部分アップ図を多用して、奉納した人びとの「こうありたい」という願いや祈りを、わかりやすく綴り、オールカラーで見るだけで楽しい絵巻としました。
たとえば上図は、福岡県うきは市諏訪神社の農耕図の田植えと田植え後のサナブリの場面です(小さいので見にくいですが、実際の本でははっきり見えます)。バックしながら植える早乙女、畦には肌をあらわにした女性が休み、白い童がカメと遊んでいます。サナブリでは相撲をとる人、樽や子どもを足で持ち上げて回す足芸をする人、上では女性とともに酒宴が開かれ、ドブロクらしき酒に顔を赤くし踊る人、嫌がる女性を誘う人など、実に楽しく描かれています。また、下図はその後の作業の場面です。草取り、稲刈り、打棚による脱穀、摺臼による籾摺り、唐箕による選別など、いまでは知る人も少なくなった作業が描かれています。
いずれの作業も何人もの結いの共働仕事で、サナブリでは共に喜びを分かち合っています。みえませんが神様もこの中でいて、昔の農作業は地域の絆を強め喜び分かち合う神事でもあったのか、と思うほどです。
農業の近代化の過程で作業の多くが機械化され、結いのような共働作業は少なくなり、地域の絆も薄くなってきました。しかし、集落営農など、これからの農業は、新しい地域の絆が求められています。これからの地域のビジョンつくりに、大絵馬はさまざまな示唆を与えてくれることでしょう。(ひさき)
■刊行予定
第一回配本 第1巻 稲作の四季(2009年9月発売予定)
以降
第2巻 諸職の技 (2009年11月発売予定)
第3巻 祈りの心(2010年1月頃発売予定)
第4巻 祭日の情景
第5巻 昔話と伝説の人びと
各巻 5,250円 揃い定価 26,250円
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